ハレ晴れゆかい〜ダンスバージョン〜

とりあえず、激奏を見ての感想w



「次は、これに参加するわよ!キョン!」
 我らが団長様が、一枚の紙を持って俺の机へとバンと叩き付けた。
 それを見た俺の感想はと言えば。

 最悪だ

 のひと言だった。


 ダンス甲子園。そんなものをこの世に作り出した奴らを俺は、今、一番に憎むべき団体だと任命した。今までは、そんなものなどテレビで見るだけの存在だったというのに、何故か今現在、俺の目の前に壁となって立ちはだかっている。
 高校生ダンス甲子園とやらが、この地域であることを聞きつけたハルヒが、何を思ったのか「SOS団でこれに参加するわよ!」と言い出した。
 メンバーもいないのに地域野球大会に参加しようなんて言い出す奴のことだから、そんなものに参加しようと言うのも別段不思議ではなかった。
 だが、俺は今回のことに関しては断固として首を縦に振りたくはなかった。
 だってダンスだぞ!ダンス!
 野球だって経験はなかったが、一応少年の嗜みとして遊び程度のことはしてきたから参加するに承諾したが、ダンスの類をやる気は俺には一切ない。
 しかし、俺以外のSOS団メンバーは、ハルヒのイエスマンであるからして、全員がその参加を賛成してしまったのだ。
 OH!朝比奈さん、あなたまでもか!
「あ、あの、私、頑張りますね」
 なんて、いつになくやる気に満ちたその言葉に、俺は朝比奈さんがこの手のことを苦手にしていないことを知った。
 長門は万能だから、特に不満もなし。
 そして、ハルヒの一番のイエスマンであるイケメン古泉君は、「では、僕が振り付けを考えましょうか?」なんて言い出す始末だ!
「ほ〜ら、キョン。全員一致で参加決定よ!勿論あんただって踊ってもらうんだからね!後ろで音楽だけを担当なんて許さないんだから」
 背中に他の三人を率いて高らかに宣言するハルヒに、俺はカチンときて「知るか!」と激昂しそうになったが、ハルヒの後ろで古泉が「世界崩壊の危機ですよ」と目配せし、朝比奈さんは「キョン君、お願い」なんて目を潤ませながら俺に訴えかけ、長門は俺の目をじっと見て「あなたは、やらなければならない」と俺を攻め立てていた。

 俺は、そういうわけで、今現在何故かステップの練習を踏まされている…。
 何度やっても足がもつれ、何度やっても同じ場所で皆とフリが合わなくなってしまう。
 俺は自分の情けなさと、何時間もダンスの練習をさせられている疲労から、ばったりとその場に膝をついて項垂れていた。息が乱れ、ハルヒの怒号に返す言葉もない。
 口から出るのは、ひ〜は〜と上がった息を整えるための呼吸音のみだ。そんな俺をハルヒが鬼監督のごとくに切り捨てる。
「なっさけないわね、キョン!あんただけは居残りよ!古泉君、悪いんだけれどキョンの面倒をみてもらえない?今日はバイトはないんでしょ?キョンをなんとかものにしないと」
「かしこまりました。僕でよろしければ、尽力をつくします」
 当人の承諾も得ずに、勝手に俺の居残りを決めるハルヒと古泉を恨めしく思いながらも、やはり口から出るのはぜ〜は〜ばかりだ。
「じゃ、あたしはもう帰るわ。キョン!あんた、明日のリハーサルでワンステップでも間違えたら、永久にお昼を奢らせるわよ!さ、みくるちゃん、有希、帰りましょ。音痴キョンに付き合ってたら真っ暗になっちゃうわ」
 言うだけ言ってハルヒはとっとと部室を出ていってしまった。朝比奈さんも俺を気遣いながらも出て行き、長門は「あなたが許可すれば動けるようにする」とひと言、魅力的な台詞を投げかけて出て行った。
「大丈夫ですか?涼宮さんにはああは言いましたが、随分とお疲れのようですし、我々も帰りましょう」
「…あ、ああ。俺はもうやらん!わかっているだろうが、俺には音感という類の能力は、一切ないんだ!」
 もうたまらんとばかりに吐き出した俺の言葉は事実だ。
 俺には音感がない。音痴だということも自覚している。踊りだって苦手を通り越している。小学校の頃に体育の授業の時にやらされた創作ダンスの時点で、俺はいち早くそのことに気がつき、班の迷惑にならないように動きの少ない木のダンスで誤魔化したくらいなのだ。
 なのに、何故に今更、こんなことをやっているのか…。
「俺は、SOS団は比較的文科系のクラブだと思っていたぞ」
 なのに、この数日はどんなきつい運動部の運動量よりも凌駕した練習っぷりだ。
「それにしても、あなた、本当に苦手なんですね」
「……うるさい。俺が音痴で誰の迷惑をかけるというんだ」
 これのせいで閉鎖空間が発生しているんですと、おまえが言うなら俺は謝るよ。ああ、そりゃあ声高らかに謝ってやる。
 謝るし、おまえの言うこと何でも聞いてやるから、俺をこの状態から解放してくれ。
「いえ…、閉鎖空間は特には。涼宮さんはむしろ、このダンスの練習を楽しんでいるようです。あなたのテンポの悪い踊りぶりを見て、喜んでいるようにも見えます」
「くそう…、俺の音痴が世界平和の役に立てて光栄だよ!」
 もう勝手にしろと、俺は練習のためにスペースを広げられている部室の真ん中に、両手を広げて寝転んだ。そんな俺を、古泉は苦笑しながら見下ろしている。
 くそ、あんなに動きの早い踊りだってのに、こいつは息の一つも乱れていない。
「むかつく…」
「え?」
「俺は、今、ハルヒの次におまえを憎んでいるぞ」
 俺に世界を改変する力があったら、おまえを俺と同じように音痴にしてやる。
「ははは、そんなことでしたらいつでも結構ですよ。あなたの言葉をお借りすれば、我々が音痴であろうとも誰の迷惑をかけるものではない。しかし、明日の大会にはどうにかしないとなりませんね」
 何とか、と古泉は言ったが、そんなものは既に最初から一つしかない。
 俺の音痴は簡単には治らないものだし、室内でやる大会が天候の悪さから中止されることもないのだ。
「長門さんに、お願いしましょうね」
 俺は長門頼みをするのを、ずっと躊躇していたが、これに関しては一も二もなく頷いた。
「あなたの音感の無さに気がついていたので、僕も初めからそのつもりだったんですよ。ですから、多少素人にはきつい振り付けにしたもので」

 おまえ、にっこり微笑めば何もかも許されるとでも思ってるのか。

 俺はすぐさま起き上がって、寝転ぶ俺の隣に楽しそうに座っている古泉を殴りつけたかったが、三時間のダンス練習に身体はいうことをきかない。
 俺はとりあえず親の敵のように、古泉の小奇麗な横顔をしばらく睨みつけることしかできなかった。