古泉一樹の食生活


一人暮しのよいところは、好きな時間に好きなものを食べられるところだ。ただし僕の場合はそれなりに見目好い体型を保たないと、涼宮さんの望むべく古泉一樹にならないので暴飲暴食はできないのだけれど、ときたまそれらを無視して何か特定のものを食べたくなる。
この間はカレーパンだった。
コンビニで売っているような油のしみたくたくたのやつではなく。パンがザクザクと音を立て、噛めばサクリと歯ごたえがあり、中からトロリとカレーがとろけ出るようなパン屋さんのカレーパンが猛烈に食べたくなった。しかも熱々のカレーにしたかったので家に持ち帰ってオーブントースターで温める必要があった。だから昼に買うのは我慢して夕ご飯のつもりで、僕はパン屋へカレーパンを買いに出掛けたのだ。
タイミングよくカレーパン祭なんかをやっていた。僕は喜び勇んで、ビーフカレーパン、トマトカレーパン、白いカレーパン、それから普通のカレーパンをトレイに乗せてほくほくしていると、何とこんな場所で彼に出会ってしまったのだ。
彼は僕のトレイの上を見て、盛大に眉を寄せた。このパンの数と時間帯を考えて、これが僕の夕ご飯とわかってしまったのだろう。眉を寄せた後に少し悲しそうな顔をさせてしまった。
「誤解しないでくださいね。僕は一人暮らしをして一人でご飯を食べますが、別段侘しさを感じたりはしていませんから」
そう、僕は単に猛烈にカレーパンを食べたかっただけで今もこれに飲み物は何にしようかなんてことをワクワクした気持ちで考えているんだ。
だけれど、僕のその言葉を彼は言い訳めいたように捕らえたようで、ドリンクコーナーから野菜ジュースを取り出すと勝手に僕のトレイに乗せてくれた。
「きちんとバランスを取れたものを食え!」
そう僕に命令して、呆れた調子でため息をついてくれたんだ。

あの日のカレーパンが、彼のお陰で格段に美味しく感じたのは言うまでもない。野菜ジュースだってきちんと飲んだ。

そんな僕が今日、猛烈に食べたいのはジェノベーゼ。時たま食べたくなるパスタだ。僕の二大好きなパスタメニューはこれとナポリタンなのだ。もう朝からジェノベーゼが食べたくて、考えるだけで唾がわいてくる程だった。
流石にジェノベーゼは作ることもコンビニでも売っていることもないので、店を物色する。

そして、なんだって、こんな時にばかりあなたに会うんでしょうね?
あなたと僕の生活範囲は異なっていたと思うのですが。
彼はメニューを見ている僕に向かって開口一番こう聞いて来た。

「古泉、今日の夕ご飯はなんだ?」

今日はカレーパンよりは答えやすい。ニッコリ微笑んでしっかりと答えた。

「ジェノベーゼですよ」