11月22日における記念日


「今日は何の日か知ってますか?」
「あ?」
「ですから、今日が何の日か知ってますか?」
 古泉がいつもの優等生スマイル以外でにっこりと笑って俺に話しかける時は、正直ろくなことがない。
 俺だけでこいつの相手をするのは面倒だったので、本を読んでいる長門にも声をかけてこちらに引き入れた。
「おい、長門。今日が何の日か知っているか?」
「あ!?僕はあなたに聞いているんですが」
 古泉が不満げに訴えてきたが、こんなのは無視だ、無視。長門は分厚い本をぱたりと閉じると、てこてこと歩いて俺の隣にちょこんと座った。
「今日は、11月22日」
 うむ、簡潔な答えだ。ナイスだ長門!
「いえ、ですから11月22日が何の日か知っておられますか?」
「ボタンの日」
「へえ〜、ボタンの日なのか?それは知らなかったな!」
「1870年、金地に桜と錨の模様の国産のボタンが海軍の制服に採用されたことに由来する」
「…そのようなマニアックな日ではなく、もっと語呂あわせ的なところで」
「大工さんの日」
「ほほう、これまた初耳だな。その由来は?」
「11月が「技能尊重月間」であること、「十一」を組み合わせると「士」となり「建築士」にふさわしいこと、22日は大工の神様とされる聖徳太子の命日であること、「11二二」を組み合わせると、11はニ本の柱をあらわし、ニは土台と梁あるいは桁を表して軸組合の構造体となり、11月22日が大工との関係が密接であることから。ちなみに、日本建築大工技能士会が1999年に制定」
「新しい記念日なんだな。しかし、聖徳太子が大工の神様ってのはどういうことなんだ?」
「世界最古の木造建造物と言われている法隆寺建設に携わり、大工道具の一つである曲尺を発明したという伝承を持つため、大工の神様として崇められている」
 長門と喋っているとwikiが言語能力を持っているような錯覚に陥るな。しかし、法隆寺って世界最古の木造建造物だったのか。すごいな、厩戸皇子!
「いえ、それでは、なく…」
「長野県りんごの日」
「お、これは俺も知ってるぞ。いい(11)ふじ(22)の日なんだよな」
「あ!その由来になった林檎の話は知ってらっしゃいますか?」
「それは知らないなあ」
「私も知らない」
「………」
「浄瑠璃歌舞伎狂言作家近松門左衞門の忌日」
「もういいです!二人で僕をイジメているんですね!うわ〜ん!!!」
 叫ぶだけ叫ぶと古泉は泣きながら部室を出て行った。
 ふ〜、危なかったぜ。
「長門、協力感謝するぞ」
「そう」
 まったく、いい夫婦の日なんて答えてたらどんなくだらないことを言い出すか。古泉のことだ、想像したくもないが予想はついてくる。
「気をつけて」
「ん?何がだ、長門」
「明日も、いい夫妻の日」
 しまった、いい(11)夫妻(23)か!くそう、記念日が多すぎだぜ、日本!しかし、これ以上、古泉をいじめるのも可哀想かね。明日はいい兄さんの日でもあるわけだし、一応兄としての立場も持っている俺としては、明日くらいは懐深く優しくしてやるとするか。
「手紙を書くといい」
「ん?」
「いいふみの日、だから」
 長門の提案に、メール世代の俺としてはちょっと恥ずかしいなと思った。手紙って、そんないつも会ってる奴に手紙とかって、こっ恥ずかしくないか?
「私は、手紙のほうが、好き」
 思い切りデジタルな電脳少女がそんなこと言ったので、明日は古泉と長門に、滅多に書かない手紙の一つも書いてやるのもいいかなと、ちょっと心が動かされる俺だった。