こどもの日スペシャル!
〜小学生古泉と高校生キョン編〜
今日はこどもの日だ。勿論、子供の俺もそれにあやかって休ませてもらっている。まあ、世の中全部が子供の日にあやかっているのだから、そろそろこの名称もなくなってもいいんじゃないかねえ。
子供のためになんで休み?
そう言ったらば、珍しい奴だと父親に笑われた。大人がそれを言うならまだしもと。
とはいえ、俺とてお休みは大変ありがたいので存分にぐだぐだとしている。すごいぞ、今年のゴールデンウィークは。一歩も外に出ておらん。どこかに出かけるという家族での予定もなく、妹は文句ひとしきりではあったが、案外同じような境遇の友達もいたようで、家族に何かを期待するのはやめて鉄砲玉のように毎日飛び出していっている。
おかげさまで、俺は静かな休日だ。
こういうまとまった休日にはハルヒがなんらかの予定を入れるもんだが、奴は家族との予定が先に決まっていたらしく、珍しくSOS団の活動をゴールデンウィーク中は無しだと言ってきた。
俺としては、実はハルヒが何か予定を入れるだろうと高をくくっていたものだから、予定がぽっかりと空いてしまったわけだった。
「ふぁああ」
ゲーム飽きた、マンガも読むものもない。ベッドで一日中寝て暮らしているのだから、会話の代わりに欠伸が日常用語になりつつある。
そんな状態の時に、奴からメールが入ったのだ。
ーうちに遊びにきませんか?ー
外は連日天気が良かった。だから、寝ているのはもったいなく思ったから、この誘いに乗ってやることにした。
「いらっしゃいませ」
「よう」
マンションのインターフォンを押した途端に、扉がすぐに開かれた。まいったね、俺の来るのを今か今かと待ちかねていたのがばればれですよ。古泉一樹くん。
そう、俺はSOS団の仲間で、目下俺の恋人という立場の古泉一樹の家に遊びにきたわけだ。
…なんだ、どうした?
恋人だよ、恋人。おまえの耳がおかしくなったわけじゃないぜ? そしておまえの目がおかしくなったわけじゃない。
そうだ、この俺より四〇センチは小さい、華奢な体躯の少年が俺の恋人だ。
なんやかんやあってな。そういうことになっているんだ。なんやかんやはまた後で。とりあえず、俺もこいつのことをそういう意味で好きだい、こいつもまた俺をそういう意味で好きなんだな。人生ってのは色々驚くことがあるもんだよな。
「予定はなかったんですか?」
そう言いながら、コーヒーを差し出す姿は随分と手慣れたものだ。俺がどれだけこの家に遊びにきているか容易にわかる。
「ああ、おまえこそおじさんと出かける予定なかったのか?」
「ええ、実はあったんですが、父の仕事でトラブルが一昨日あって、全部予定はキャンセルになってしまったんです。ちなみに今日もそのトラブル対処に出かけていて、僕一人で暇を持て余していたんですよ」
「どこに行くつもりだったんだ?」
「…ディズニーランドに」
ちょっと言いにくそうな古泉に、思わず顔がにやけてしまう。きっとそんなところに親と行くのは子供っぽいとか思っているんだろうよ。いやいや全然おかしくないから。小学四年生がお父さんと遊園地って、さっぱりおかしくないから。
だがあえてそれを口には出さないでおこう。なんと言ってもこいつは俺の恋人なわけだ。こいつなりに俺に対して大人びていたいのだという想いはしっかり伝わっているので、俺はなるべくこいつを子供扱いすることのないよう気をつけている。
「そっかあ。残念だったなあ」
「そうでもないですよ」
「俺、行ったことないんだよ。今度一緒行こうぜ?」
デートってやつ? わあ、俺恥ずかしいぜ。
すると、俺の恥ずかしさをこの野郎は「え?! いやですよ!」と思いっきり否定してくれやがった。
「なんでだよ?」
「だって、…その」
「はっきり言え」
「…あそこは、恋人同士で行くと別れるっていうジンクスがあるじゃないですか」
もじもじ。
くっ、可愛いぜ。まだ、俺と恋人って言うのに躊躇するその姿。思わずきゅんとくる俺は、それはそれで末期だとしみじみ思ってしまう。
「あ〜、…そ、そうか」
「そ、そうです!」
「ど、どこで、そんな情報仕入れてきたんだ?」
「森さんです」
「そ、そうか」
「はい…」
まいったな。気恥ずかしい空気満載だ。俺らはまだそんな立場になってから日があまり経っていないものだから、こんな会話一つでもじもじしちまう。俺のほうが年上なんだからリードしろよとおまえらは思うだろうが、こういうオツキアイってやつを俺だっていまだかつて経験したことがないのだ。だから、立場は古泉と一緒で、むしろ古泉にリードしてもらいたいくらいだと、ちょっぴり泣きが入ってしまう。
口には出さんが。
「んじゃ、さ。別のとこ行こうぜ」
代替え案。
「どこにですか?」
「今すぐは思いつかないけど、何だったら泊まりとかもいいな」
はっ!? 俺、今さらりとやばいこと言った?
ああ、言ったな。古泉の顔を見ればわかる。すまん、俺はおまえをそんなに真っ赤にさせるつもりはなかったんだ。
「と、と、泊まり、で、すか」
「お、おう」
ちょっと早い話だったか。い、いや、早いもなにもただ泊まるだけじゃねえか。おかしくない。
「え、えっと、イヤか?」
「そういうわけではありませんが」
言っておくが、俺は高校生で古泉は小学生だ。だから、恋人同士だからって何にもしてねえぞ? ちょっとチューはしちまったが、それ以上のことは当然していない! そもそも古泉にそんな知識があるかのほうが疑問だ。
「…あなたは、いいんですか?」
…知識、あるんだなあ。でも、無理だろ? いや、無理とかそういうことじゃなくても、倫理的に、な?
「いいって?」
思わず恐る恐るオウム返しに聞いてしまったのは失敗だった。
「こういう意味で、なんですが」
今日はこどもの日だ。
だからって、俺が古泉に押し倒されている理由にはならんと思わんかね?
さて、これから古泉は「どういう意味」での説明をしてくれるのだろう。俺はそれにどう答えたらいいのか。
どうかそこのおまえ教えてくれ!