キョンによるネオアンプレイ日記


古泉が悪いわけではないので、先ほどの古泉(仮)の不愉快な言動は忘れて、もてなすことにしてやる。
「飯食ったか?カレーあるんだが」
「あ、ああ。是非。何も食べてないものですから」
目に見えてほっとした様子の古泉を見て、少しおかしくなった。俺が不機嫌なままで出迎えたのでびくついていた古泉だったが、俺の言葉一つで笑顔になりやがる。
古泉を先ほどまで俺が座っていたリビングのソファに座らせて、カレーを温めてやった。
戻ってくると、出しっぱなしにしていたゲームのパッケージをしげしげと見ている。
「ほらよ。飲み物は、お茶でいいよな?」
「え、ええ。ありがとうございます。ところで、随分と少女趣味なゲームをしていらっしゃるんですね。あまりにもあなたのキャラクターではない気がして、いささか驚きましたよ」
「あ?俺が、率先してこんなゲームをやっていると思っているのか?ハルヒだ、ハルヒ!団長様の命令なんだよ」
「はあ?これまた不思議な命令ですね。これでもやって乙女心を理解しろと?」
この野郎。おまえが原因だというのに、人事のように言いやがって。
「いいから、もうおまえはカレーでも食いながら眺めてろ」
「では、いただきます。それにしても懐かしいですね。人がゲームをしているのを横から眺めているだなんて、小学生以来ですよ…って、あなた。自分の名前をつけていらっしゃるんですか?」
「ああ」
そんなに驚くことかね。
「…あの?これって恋愛ゲームなんですよね」
「おお」
「僕に自分の名前でプレイしているところを見られて、ちょっと恥ずかしいとか、いたたまれないとか、ないんでしょうか?」
「ないな。ただのゲームだ」
俺の簡潔な答えに、古泉は何かを諦めたかのようなため息をついた。
さて、おまえはカレーでも食ってろ。俺は「キョン」ちゃんを古泉(仮)とくっつけなければならんのだ。

「………」
「…あの」
「もうちょいだ。ちょっと待ってろ」
「…はい」
カレーも食い終わって手持ち無沙汰になった様子の古泉だったが、こちらも話はまあまあ佳境に入っているのだ。仲間の一人が敵に乗っ取られて助けに行かないといけない。単純なゲームではあったが、それなりに戦闘能力を上げていないといけないので、オートで戦闘を繰り返す必要がある。
「ど〜れ。「キョン」ちゃんを宇宙にでも行かせることにするか。これ終わったら、映画見ようぜ。おまえの苦手なゾンビ映画があるんだ」
「うわっ!あなた、人を呼び出しておいて嫌がらせですか!?」
「暗い中、一人で家に帰るのが怖いなら泊まっていけばいいだろうが。うちは大丈夫だぜ」
なんて提案してやると、古泉は静かになった。お泊り決定というわけだ。
そんなこんななやり取りをしているうちに、俺の手は勝手にコントローラーを操り、「キョン」ちゃんは古泉(仮)と協力の下、無事に敵を倒した。
すると、宇宙の意思とやら出てきて(こんな名前が出てくると、長門の上司を思い出すな)、「キョン」ちゃんに女王になるかどうかを聞いてきた。
「…なあ、どうすべきだと思うよ。おまえは?」
ふいに、最後の決断を古泉に委ねてみたくなった。唐突に話をふられた古泉は、今までぼうっと暇そうに画面を見ているんだか見ていないんだかしていたのだが、案外話をきちんと追っていたらしく、しっかりと俺の問いかけに応えてくれた。
「そうですね。このゲームの本質から言いますと、女王にはならずに目下ターゲットにしている青年の元に戻って恋を成就させるべきでしょうが、僕の考えとしては、決められたこの世界の摂理を守って、愛や恋に生きずに自分に課せられたことを成すべきだと思いますね」
「…随分、小難しく言ってくれるじゃないか」
自分に課せられたこと、か。
まるで自分に重ねるような発言をしてくれる。くそ、こんなキラキラしいゲームで、どうしてこんなシリアスモードになれる?
「…じゃあ、おまえの言うことを尊重して、愛だの恋だのを忘れて、決められた道を歩むとするか」
「…っ」
俺に言いなおされたことで、傷ついていては格好が悪いぞ、古泉一樹。
ったく。こいつは本当に面倒な奴だ。

「女王になります!」
ぽちりと選んだ。
隣で、こんなくだらんゲームで、微妙に顔色を悪くしている古泉を横目で見ながら、最後の会話を宇宙意思と繰り広げる。
「…あれ?」
素晴らしく面白い展開に話が進んでくれた。
女王になる「キョン」ちゃんに贈り物をくれると言う。それが、長い年月を共に過ごす人間を一人。なんだ?宇宙の意思だかなんだか知らんが、それは自身売買的じゃないか?勝手だな、宇宙意思。
だが、これはなかなかいい展開だった。
「キョン」ちゃんは宇宙意思との会話を切り上げると、古泉(仮)の元へ行ってこう言ったのだ。
「女王のあたしに、一生ついてこい!」(超意訳)
ぐだぐだ言っていた古泉(仮)も、この「キョン」ちゃんの思い切りの良さにさすがに観念して、ついに二人は結ばれてくれたのだ。
おお!やったな!どうやらアニメーションが入るEDが正規ルートらしいので、このルートは正規ではないらしいのだが、俺は、この展開が大いに気に入った。
課せられたことを成し遂げ、かつ、好きな奴と一緒にもなれる!そうだよな。真面目にやってる奴が、一人で寂しく一生を過ごすだなんて馬鹿をみるなんて可哀想じゃないか。
俺は、エンドロールを眺めながら、やはりこの展開を意外そうに見つめている古泉に言ってやった。
「なあ、課されたことを従順に成し遂げたとしても、愛だの恋だのは成就できるみたいだぜ?」
「…これは、ゲーム、ですよ」
ふん。ゲームであろうとこういう可能性もあるということを、おまえはいい加減認めて、その後ろ向きの考えをどうにかすべきだ。
俺は、ハルヒに課されたことを成し遂げた達成感と、古泉の戸惑っている様子に満足して、コントローラーをぶん投げる。そして、やはりごにょごにょ言っている古泉に向かって、にやりと笑う。
「な、なんですか?」

「まあ、なんだ。おまえも、俺についてこいよ」

ハッピーエンドが待ってるかもしれないだろ?
なんて古泉を喜ばせてやってから、俺はゾンビ映画を見るために、画面を切り替えて再生ボタンを押した。


プレイ終了