キョンによるネオアンプレイ日記


「ただいま〜」
と、言ってみても今日の夕方は誰もいない。妹は友達の家にお泊り会。両親は近所の連中とカラオケ大会に行っている。きっと今夜は遅くまで帰ってこないだろう。
俺はといえば、明日は妹同じく休みであったが、SOS団の活動もない日だったので、一人留守番をして怠惰に過ごそうと思っているところだ。
とりあえず、母親が作っていってくれた夕飯の確認。温めるだけのコロッケと、カレーが鍋一つにあった。ご飯も炊けているので、今日はコロッケカレーに決定だ。
いつもはまだ風呂に入る時間ではなかったが、今日はとっとと入ってしまおう。クラスメイトに一つのゲームソフトを借りているのだ。正確に言うと、押し付けられたに近い。
最近はあまりゲームをやっていなかったので、PS2がきちんと動くかどうか?
風呂に入り、カレーとコロッケをご飯の上に乗せた夕飯と、2リットル入りのお茶を小脇に、俺は夕飯を食べながらそれをやることにする。
きらきらしいパッケージ。絶対、俺の趣味ではないのだということを言明しておこう。
そもそもこんなものは、俺が、というか男がやるようなものじゃない。恋愛シミュレーションゲーム。しかも、女の子が主人公だから、落とすのは男だ。
…そこ、引くな。俺が既に引いているんだから、皆で引いたら話しにならないだろうが。
こんなものを俺がやる羽目になったのは、ハルヒが原因だったりする。

「ねえねえ、キョン!このゲームのこの白い髪の男の人って、古泉君に声がそっくりなんだって!あんた、ちょっとプレイして、それを検証してちょうだいよ!」
はっきり言って、意味がわからん。クラスメイトの方々も、あまりハルヒにくだらん情報を流さないでいただきたい。俺にダイレクトに被害がこうむるのだからな。
自分でやればいいだろうがと、当然俺は言ったさ。あ〜言ったとも。だが、あのこらえ性の無いハルヒがこんなまどろこっしい恋愛ゲームができるのかと言えば、正直できる筈もなく。俺は休み明けに、このゲームのプレイ内容を録画して持っていく羽目になったわけだ。
パチンと電源を入れる。黒いPS2の機体に埃がたまってるのは、いかに俺がこれに触ってなかったかの証拠だろう。よもや久々のプレイが、女性向け恋愛シミュレーションゲームだとは、このPS2君も思いもよらなかっただろうよ。
「え…っと、名前入力か」
もう、どうでもいい。俺の名前でも入れておくか。本名も恥ずかしいから、キョンでいいや。キョン様にするかな。古泉っぽい奴に「様」呼ばわりされるのも、なかなかに面白おかしいだろう。
結局、キョンのままにスタートした。
「さてと、古泉に愛でも囁かせてみるか」

俺は、とことん投げやりになっていたんだと思う。でなかったら、こんな酔狂な真似をする筈がない。
カレーを食べながら、なかなか出てこない古泉の声に似た奴を待ち、俺は一人無我の境地で、このキラキラしいゲームを始めることになるのだった。