ぶっ生き返す!!


 大体にして指を震わせる理由がわからない。さすがに素っ頓狂なことを言っている自覚があるからなのだろうか?
 いきなりセフレだぞ。それも男相手に。後から考えれば、古泉は機関とやらに所属しているのだからそこにいる同僚の女性にでも、俺を紹介すればよかったのだ。事情もわかっている大人の女性を。そこまで思い当たらなかったのは、こいつも俺と同じく経験が乏しいという証なのか。はたまた、そんな女衒のような真似は女性、仲間に対して失礼と感じたからか。
 もしくはこいつも未知なる好奇心に身を委ねたのか。
 なんにせよ、こいつは手を震わせている。軽さを装いながら、緊張、もしくは嫌悪感をあらわにしているわけだ。自己犠牲ってやつかね。多少の好奇心はあったとしても、さすがに男を相手にするのは嫌なんだろう。
 おまえのその行動は尊敬に値するよ。
 だが、おまえは俺を誘ったことは事実だ。多分に、俺が断ることを前提の半ば冗談のつもりだったのかもしれんが、受け入れられてしまったわけだ。さて、どうする古泉よ?

「…いいんですか?」
 恐る恐る聞いてくる古泉がらしくなくて、俺は余裕を取り戻した。らしくない古泉というものは、裏を返せば素のこいつというわけで、俺はそんな古泉本人を垣間見るのが嫌いじゃなかったりする。
「いいもなにも、おまえから言い出したんだろうが。で?」
「…で?とは」
「で、これからどうするんだ?まさかノープランで人に提案したんじゃないんだろう?」
 追い詰めているな、とさすがの俺も古泉の様子を見ながら気が付いていた。古泉は俺を真っ直ぐに見ながらも、その目の奥は確実に泳いでいる。
 今なら「冗談ですよ」と覆しても俺は怒らんのだが、何故だか古泉は自分からそれ言うつもりはないらしい。ひょっとして俺から「冗談だ」と言われたいのだろうか。
 それは駄目だ、古泉。自分の発した言葉は、自分で蹴りをつけろ。
 おまえは先ほど「冗談ではない」と俺に言ったのだからな。
「そんじゃ、放課後はおまえの家に行くか」
「え!?」
「俺の家は親や妹がいるしな。おまえの家のほうが都合がいい。一人暮らしなんだろ?」
「それはそうなんですが。あなた、本当にいいんですか?」
「くどい」
 強気に言ってはみたが、俺は別に本気でそんなつもりはなかった。古泉相手にセフレだなんて、モーゼが海を真っ二つにするくらい、ちょっと有り得ない話だろうが。
 俺は、古泉をいじめたい気分になっていたのだ。
 はっきり言って、こいつの「涼宮さん」中心の考え方には嫌気が差していた。ハルヒに関することで、色々と力を尽くしているのは知っていた。知ってはいたが、その力の尽くし方が俺に「セフレになりませんか?」だと!?
 指を震わせるほど嫌なくせに、そんなことをこいつは言う。
 俺の平穏を守るためだなんてもっともな理由をつけてくれたが、古泉よ。おまえは相当に失礼な奴だよ。
 俺の人格を全て無視してくれた提案だ。本当は俺とそんなことをするのが嫌なんだろ?糞ったれ。
 ああ、決めた。俺は古泉をいじめることに決めたね。
 俺はどろっとした根深い感情を隠しながら、古泉を退けて立ち上がった。そして未だにコンクリの床に座り込んでいる古泉を、やけに清清しい笑顔を浮かべて見下ろす。
「じゃあ、放課後。バイトが入らないように、精々ハルヒのご機嫌を取っておいてやるよ」
 最後の一言は随分な嫌味だな。俺よ。