「…いいんですか?」
恐る恐る聞いてくる古泉がらしくなくて、俺は余裕を取り戻した。らしくない古泉というものは、裏を返せば素のこいつというわけで、俺はそんな古泉本人を垣間見るのが嫌いじゃなかったりする。
「いいもなにも、おまえから言い出したんだろうが。で?」
「…で?とは」
「で、これからどうするんだ?まさかノープランで人に提案したんじゃないんだろう?」
追い詰めているな、とさすがの俺も古泉の様子を見ながら気が付いていた。古泉は俺を真っ直ぐに見ながらも、その目の奥は確実に泳いでいる。
今なら「冗談ですよ」と覆しても俺は怒らんのだが、何故だか古泉は自分からそれ言うつもりはないらしい。ひょっとして俺から「冗談だ」と言われたいのだろうか。
それは駄目だ、古泉。自分の発した言葉は、自分で蹴りをつけろ。
おまえは先ほど「冗談ではない」と俺に言ったのだからな。
「そんじゃ、放課後はおまえの家に行くか」
「え!?」
「俺の家は親や妹がいるしな。おまえの家のほうが都合がいい。一人暮らしなんだろ?」
「それはそうなんですが。あなた、本当にいいんですか?」
「くどい」
強気に言ってはみたが、俺は別に本気でそんなつもりはなかった。古泉相手にセフレだなんて、モーゼが海を真っ二つにするくらい、ちょっと有り得ない話だろうが。
俺は、古泉をいじめたい気分になっていたのだ。
はっきり言って、こいつの「涼宮さん」中心の考え方には嫌気が差していた。ハルヒに関することで、色々と力を尽くしているのは知っていた。知ってはいたが、その力の尽くし方が俺に「セフレになりませんか?」だと!?
指を震わせるほど嫌なくせに、そんなことをこいつは言う。
俺の平穏を守るためだなんてもっともな理由をつけてくれたが、古泉よ。おまえは相当に失礼な奴だよ。
俺の人格を全て無視してくれた提案だ。本当は俺とそんなことをするのが嫌なんだろ?糞ったれ。
ああ、決めた。俺は古泉をいじめることに決めたね。
俺はどろっとした根深い感情を隠しながら、古泉を退けて立ち上がった。そして未だにコンクリの床に座り込んでいる古泉を、やけに清清しい笑顔を浮かべて見下ろす。
「じゃあ、放課後。バイトが入らないように、精々ハルヒのご機嫌を取っておいてやるよ」
最後の一言は随分な嫌味だな。俺よ。