SOSメンバー。
 団長、涼宮ハルヒ
 団員兼文芸部部長、長門有希
 団員兼マスコット兼広報部長、朝比奈みくる
 校外団員兼参謀、古泉一樹
 平団員、キョン

 ハルヒがすらすらとホワイトボードに「メンバー表よ!」と書いていく。
 あ〜あ、どうして俺だけがあだ名なわけだ。おまえ、俺の名前覚えてるか? しかもただ団員と書けばいいものを、わざわざ「平」をつけてくれる徹底ぶり。母さん、俺はいじめられていると言ってもいいのではないでしょうか?
 などと、俺が「うちの学校には心理カウンセラーの人は常駐していただろうか?」なんて考えるほど、高校生活に早くも憂いているとも露知らず、ハルヒは朝比奈さんに煎れてもらった玉露を片手に、一人で満足げに頷いていた。
「これぞ完璧なる人選だわ」
「どこがだ」
 突っ込まずにはいられない俺の浅はかさよ。一つ言えば七百は返ってくるというのに、俺はやはりハルヒの言動には突っ込まずにはいられない。
 あ、俺は今、このSOS団に足りないものがわかったぞ。勿論参謀なんかじゃない。俺以外の突っ込みだ。地域柄、突込みがDNAに刻み込まれている奴なら校内に山ほどいるだろうから、一人や二人見繕ってこようか。…まあ、ハルヒに鼻であしらわれるのがオチだろうが。
「どこって見てわからない? 今まで欠けていた参謀がついに入団したのよ。これでSOS団は世界に向けて第一歩を踏み出したわ。ね、みくるちゃんもそう思うでしょ?」
「ひゃ、ひゃい!」
 唐突に話を振られて声がひっくり返ってしまった朝比奈さんに罪はないだろう。ハルヒも特に気にした様子もなく、いや、むしろそんなちょっとおっちょこちょいな朝比奈さんの態度に「萌」でも見出して満足しているのか、朝比奈さんににっこりと笑うと、長門にも「ね!」と同意を求めた。
 長門はこっくりと電気仕掛けの人形のように首を動かしただけだったが、ハルヒはそんなことを気にするわけはない。
「かんっぺきよ!」
「だがな、参謀様は校外団員なんだぞ。しかも高校生でもなく小学生だぞ、小学生。おまえ引っ張りまわすんだったら、親御さんにきちんと了承を取って、なんらかのことがあったら責任を負わないとならんのだぞ。その辺のところはわかっているのか?」
「わかっているわよ! 大体、古泉くんのお父さんにはきちんと挨拶をしているわよ。元々、家庭教師を頼まれていた間柄ですからね。小学生を夜遅くまで付き合わせる気はないし、危険なこともさせるつもりはないわ! でも、古泉くんは理性的で頭の回転がよくて、結構面白いのよ」
「おもしろいだけでなあ、おまえ」
 なおも言い募る俺に、ハルヒがぎろりと睨みつける。
「ええい、うるさい! 言ったでしょ? あたしは古泉くんにムリは言ってないわ! 古泉くんがあたしの活動を面白そうって言って、仲間に入りたがったのよ。なんの文句があるわけよ、あんたは!」
 なるほど。確かに小学生から見たら、ハルヒの言うところのSOS団の活動は魅力的だろう。
 なんと言っても、宇宙人、未来人、超能力者、それに準ずる者を探して一緒に遊ぼうという涼宮ハルヒの団、だ。子供が面白がらないはずが無い。
 俺はあの、小生意気ながらもハルヒに無理強いをされているのではないかと危惧していたわけなんだが、そういうわけでもなさそうなのがわかったので、これ以上ハルヒに何かを言うのをやめることにした。

 さて、そういうわけで、我がSOS団はメンバーが五人となった。
 校外団員の古泉のために活動は、なるべく校外となったが、別に何をするわけでもない同好会なので、その辺のところは影響は無い。
 二、三回古泉を交えて、校外活動、いわゆる宇宙人や未来人、超能力者を探索するという内容を行った。古泉は最初の険のある言い方をそれ以降することはなかったが、俺はやはり古泉の礼儀正しいとハルヒが絶賛している態度に違和感を取り払うことができないでいる。
 やはりな、いくら頭がいい、礼儀正しいと言われても、こいつはあまりにも聞き分けが良すぎるのではないだろうか? ハルヒに対してイエスマンすぎる。イエスマンな小学生だなんて、俺は決して認めんぞ。
 だが、その頃、俺は古泉以上に困惑する事態に遭遇していた。
 なんと、いきなり目の前に宇宙人と未来人が現れたのだ。

「この銀河統括する「情報統合思念体」によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インタフェース。それが私。いわゆる、あなた方が言うところの宇宙人」

「私はこの時代の人間ではありません。もっと“未来”から来ました。私は…涼宮さん周辺の“時間”の監視役なんです」

 な?
 こんなことをいきなり、今まで普通に接していた、いわゆる友達と言ってもいい同級生と上級生から言われたら、小学四年生が高校生の同好会に入部しているなんて取るに足りないものだと思ってしまうだろう?
 その小学生が周囲に壁を張り巡らしている事柄なんて、あまりにも些細なことだと思えてしまうくらいの衝撃。俺はハルヒという爆弾女の出会いと同じ以上の奔流に、身を投げ出されてしまったわけだ。