キョンによるネオアンプレイ日記


古泉に「なにやってる?」とメールを出したのだが、すぐには返事はこなかった。
…まさかバイトじゃなかろうな。
ハルヒの機嫌は悪くはなかった。家に帰ってから何かあったならあの閉鎖空間が生まれる可能性はあったが、その予兆は何も感じられなかった。だから、きっと、古泉はバイトなんかじゃない。
風呂にでも入っていて、メールに気が付かないだけなんだろう。俺はそう考えたかっただけかもしれない。あいつがいわゆる命がけで戦っているときに、こんなゲームなんぞをやっているのが気が引けてしょうがないからな。
そんなことをもやもやと考えているうちに、携帯がぶるりと鳴った。
ディスプレイに映し出される古泉の文字に、俺は少しだけほっとして、ほっとした自分に照れ隠しに一つ舌打ちをする。
「シャワーを浴びてました。どうかしましたか?」
当たりだ。さて、なんと返してやろうか?

「暇してる。遊びにこないか?カレーもあるぞ」

シャワーも浴びてこれからくつろごうとしている奴に、来ないとわかっていながらこんなメールを出してやった。すると、送信を押してから十秒も待たずに返事が来た。

「行きます」

簡潔だ。迷いが無いな、古泉め。
とりあえずカレーの残りは心配してはいなかったが、ご飯の残りが心もとなかったのを思い出して、俺は古泉のために一人分のご飯があるかどうか確認しにいった。少し足りないが、冷凍庫に冷凍ご飯があったからそれを混ぜればいいだろう。
どれ、古泉が来る前に一発、古泉(仮)に告白でもされるか。
奴が来るとわかったお陰で、余計な心配事がなくなった俺は、それから一気に進めて、古泉(仮)にお守りのスミレの手鏡は渡されるは、うっかりそれを無くしてしまうは、夜まで探していたらば古泉(仮)に怒られて「鏡なぞなくても俺が守る」だのと言われて赤くなっているはと、波乱万丈に事を進めていった。
「キョン」ちゃんよ。こんな無表情な男はやめておけ。告白しているのに、この無表情ぶりはどうかと思うぞ。俺が言うくらいだから、よほどのものだ。
「……うっ」
俺は一瞬固まってしまった。古泉(仮)が突然晴れ晴れとした顔になって、いきなり「咲きたての花のようだな…。俺の恋人は初々しくて、とても可憐だ、ということだ」などと言い出しやがったのだ。
その声で「恋人」とか言うな!あ〜、恥ずかしい!
俺は今更ながらに、このゲームの恥ずかしさを実感していた。本当に今更だとは思うのだが、七転八倒したいくらい、今のは俺の羞恥心に火をつけてくれた。
気を取り直して、古泉(仮)と恋人になったらしい「キョン」ちゃんは色々な事件が起きることによって、何故だか別れることになってしまったのだ!
何故だ?意味がわからん!
古泉(仮)よ。女王云々は吹っ切れたんじゃなかったのか?今更、「自分は、あなたを守るためだけに存在する」だのと言ってんじゃない。
「…私の気持ちは聞いてくれないんですか?なんでもひとりで先に決めて…勝手な人!」
画面の中で古泉(仮)を罵倒している「キョン」ちゃんに、俺は
「まったくもって、勝手な野郎だ」
と、思わず声に出して同意する。
そんなタイミングでインターホンが鳴った。

「……あ、あの?…何を怒ってらっしゃるんですか?」
「別に」